神戸地方裁判所 平成5年(ワ)1912号 判決 1999年9月24日
別紙一「当事者目録」記載のとおり
主文
一 本件訴えのうち次の部分をいずれも却下する。
1 原告X1(原告番号A②)、原告X2(原告番号A⑰・C⑬)、原告X3(原告番号B①)、原告X4(原告番号B④・C⑰)、原告X5(原告番号B⑤)並びに第三事件原告ら(右原告X2、同X4を除く)及び第四事件原告らの、被告垂水ゴルフ倶楽部に対する細則無効確認請求。
2 原告らの被告垂水ゴルフ株式会社に対する請求。
二 第一事件原告ら(右原告X1、同X2を除く。)並びに原告X6(原告番号B②)及び原告X7(原告番号B③)の、被告垂水ゴルフ倶楽部に対する細則無効確認請求をいずれも棄却する。
三 第二ないし第四事件原告らの、被告垂水ゴルフ倶楽部に対する株券返還請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 原告らと被告らとの間において、被告垂水ゴルフ倶楽部の細則四条に定める「定款第一四条による会員の資格を喪失した株主たる会員は必ず必要書類に垂水ゴルフ株式会社の株券を添え提出しなければならない。」との規定が無効であることを確認する(原告X2(原告番号A⑰・C⑬)は第一事件と第三事件とで、原告X4(原告番号B④・C⑰)は第二事件と第三事件とで、いずれも重ねて請求する。)。
2 被告垂水ゴルフ倶楽部は、第二ないし第四事件原告らそれぞれに対し、被告垂水ゴルフ株式会社の株券各一枚ずつを返還せよ。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
4 第2項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁(被告垂水ゴルフ倶楽部)
1 原告らの被告垂水ゴルフ倶楽部に対する請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
三 請求の趣旨に対する答弁(被告垂水ゴルフ株式会社)
1(本案前の答弁)
本件訴えのうち被告垂水ゴルフ株式会社に対する請求部分を却下する。
2(本案の答弁)
原告らの被告垂水ゴルフ株式会社に対する請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二事案の概要
一 本件は、被告垂水ゴルフ倶楽部(以下「被告倶楽部」という。)の会員である第一事件原告ら、被告倶楽部の会員であった第二事件原告ら、被告倶楽部の会員であった者の相続人である第三及び第四事件原告ら(ただし、一部の原告らについては右分類にあてはまらない者がいる。)が、被告倶楽部及び被告垂水ゴルフ株式会社(以下「被告会社」という。)に対し、請求の趣旨1記載の被告倶楽部の細則の一部が無効であることの確認を求めるとともに、第二ないし第四事件原告らが、被告倶楽部に対し、右細則に基づいて被告倶楽部に引き渡した被告会社の株券の返還を求める事案である。
二 前提となる事実(証拠が挙げられている事項以外は、当事者間に争いがない。)
1 当事者
(一) 被告ら
(1) 被告倶楽部は、昭和二六年九月に設立されたゴルフクラブであり、権利能力なき社団としての法的性格を有するものである。
そして、被告倶楽部は、被告会社からゴルフ場の敷地や設備を借り受けて、ゴルフ場の運営にあたっている(以下、単に施設を指すものとして「本件ゴルフ場」という。)。
被告倶楽部の会員には数種の別があるが、主なものは自然人である「正会員」と法人である「法人会員」である。そして、法人会員は一口につき二名の自然人に限って登録することができ、右登録された者は、本件ゴルフ場の利用に関しては、正会員と同様に取り扱われる。
(2) 被告会社は、株主の体育及び娯楽に関する業務を行うこと等を目的とする株式会社であり、本件ゴルフ場の敷地(一部を除く。)を訴外新三菱重工業株式会社(以下「訴外会社」という。)から賃借し、これを被告倶楽部に転貸している。
(3) かつては、被告倶楽部の正会員、法人会員は、すべて被告会社の株主であった。なお、被告会社の株主には、この他に、訴外会社がいる。
(二) 原告ら
(1) 原告X1(原告番号A②)、原告X2(原告番号A⑰・C⑬)を除く第一事件原告らは、被告倶楽部の正会員であるとともに、現に被告会社の株主である(後記のとおり、右原告両名については被告倶楽部の会員資格について争いがあり、この点については後に判断する。)。
(2) 原告X6(原告番号B②)及び原告X7(原告番号B③)を除く第二事件原告らは、かつて被告倶楽部の正会員であった。
また、右原告両名は、かつて被告倶楽部の法人会員であった訴外新日本特販株式会社の登録会員であったが、同社が被告倶楽部を退会した際、右原告両名が被告倶楽部の正会員となり、現在に至っている。
(3) 第三及び第四事件原告らは、かつて被告倶楽部の正会員であった者の相続人である(第三及び第四事件原告らの被相続人がかつて被告倶楽部の正会員であったことは当事者間に争いがなく、第三及び第四事件原告らの相続の事実は、<証拠省略>、弁論の全趣旨により認められる。)。
2 被告倶楽部の現行の定款及び細則には、次のような定めがある。
(一) 定款一四条
会員としての資格は下の事由により消滅する。
(1) 退会
(2) 死亡
(3) 除名
(4) 特別会員にして官公職にある者が転任又は退官職したとき
(5) 法人会員にしてその法人が解散したとき
(二) 細則四条(以下、現行の細則四条を指すものとして、「本件細則」という。)
定款第一四条による会員の資格を喪失した株主たる会員は必ず必要書類に垂水ゴルフ株式会社の株券を添え提出しなければならない。
3 原告らの被告倶楽部の入退会時期、株券の引渡し
(一) 第一事件原告らの入会時期、第二事件原告らの入会及び退会時期、第三及び第四事件原告らの被相続人の入会及び退会時期(被相続人の死亡後に退会手続がとられた場合は右退会手続がとられた時期)並びに死亡時期は、別紙二「入退会時期一覧表」<省略>のとおりである。
(二) 前記のとおり、原告X6(原告番号B②)及び原告X7(原告番号B③)は、訴外新日本特販株式会社が被告倶楽部を退会した際、被告倶楽部の正会員になったものであるが、同社は、右退会の際、本件細則にしたがって、有していた被告会社の株券二枚を被告倶楽部に引き渡した。
(三) 右原告両名を除く第二事件原告らは、被告倶楽部を退会する際、本件細則にしたがって、それぞれが有していた被告会社の株券を被告倶楽部に引き渡した。
(四) 第三及び第四事件原告らに関しては、被相続人が生前に被告倶楽部を退会する際に被告会社の株券を被告倶楽部に引き渡した例と、被相続人が死亡したために、相続人である第三及び第四事件原告らがこれによる被告倶楽部の退会手続をとった際に、被告会社の株券を被告倶楽部に引き渡した例とがある。
三 争点
本件の主要な争点は次のとおりである。
1 本件細則が無効であることの確認を求める利益。
(一) 一部の原告らの確認の利益
(二) 被告会社に対する確認の利益
2 本件細則は無効なものであるか。
(一) 手続法的観点
(二) 実体法的観点
四 争点に関する当事者の主張
1 原告らの主張
(一) 事実経過
(1) 前提となる事実1(一)(3)記載のとおり、かつては、被告倶楽部の正会員はすべて被告会社の株主であった。そして、別紙二「入退会時期一覧表」<省略>のとおり、原告らあるいはその被相続人が被告倶楽部に入会したのは昭和三〇年代までであり、原告らあるいはその被相続人は、被告会社の株主であった(第一事件原告らは現在も被告会社の株主である。)。
また、原告らあるいはその被相続人が入会した当時の被告倶楽部の定款では、「正会員及び婦人会員が死亡の場合はその家族に限り理事会の承認を得て物故会員の有した資格を継承することができる。」(定款一四条。甲五〇、乙二の1、2)と明記されていたほか、「正会員又は婦人会員が退会するに際し理事会の承認を得た者に限り新規入会希望者に権利義務を継承させることができる。」(同定款一五条)と規定されており、被告倶楽部の会員たる資格が相続されたり、譲渡されることが定款上予定されていた。
実際にも、昭和三六年ころまでは、退会者が生じた場合は、被告倶楽部が株式の譲渡を斡旋・仲介しており、新会員が株式の譲渡を受けて代金を支払うとともに被告倶楽部の入会金を支払うという方法により、会員権及び株主権の譲渡が行われていた。
(2) ところが、昭和四〇年代に入ると、被告倶楽部は、新規入会希望者に対する株式譲渡の斡旋をせず、個人株主に対しては、被告倶楽部を退会する際に、被告会社の株券を被告倶楽部に提出するよう求めるようになった。
(3) 定款上も、昭和四六年六月には、前記のような物故会員が有していた資格を家族が継承することができるとの条項や、退会者の権利義務を新規入会者に継承させることができるとの条項が、株主である会員に事前の説明のないままに撤廃された(乙一二の1)。
(4) さらに、昭和四九年二月には、会員が死亡した場合に、「直系卑属にして入会希望ある者は、理事会の承認を得て週日会員として入会できる。但し所定の入会金を納入しなければならない。」(乙一五の1。細則五条)との条項が新設されるとともに、細則上も、物故会員の有した資格を家族が継承することや、前会員の権利義務を新規入会者に継承するとの条項が、株主会員に対する事前の説明のないままに完全に撤廃されたうえ、あたかも退会や死亡時に被告倶楽部に対して株券を提出しなければならないような条項(細則四条〔本件細則〕。乙一五の1)が残された。
(5) これにより、株主たる正会員は、新規入会希望者に対する株式の譲渡や家族内における会員権及び株式の継承が認められず、相続人においても高額の入会金を負担しなければ週日会員にすらなれないという取り扱いが固定化されることになった。
(6) その後、被告倶楽部は、正会員が退会した場合には、本件細則を根拠として退会交付金と引き替えに株券の提出を迫ったり、物故会員が株券を被告倶楽部に預けたままにしていたため株券の存在を知らない相続人に対しては、何ら株券について告知しないで退会手続を進めたり、株券を保管していた相続人に対しては、退会交付金があたかも株式の償還代金であるかのように告知して株券を提出させたりするなどして、株券の回収を図ってきた。
(二) 手続法的観点からの無効事由(争点2(一))
前記のとおり、原告ら及びその被相続人は、遅くとも昭和三〇年代までに被告倶楽部に入会した者であるところ、原始会員として入会した者も、株式を譲り受けて入会した者も、すべて株式の自由譲渡を前提として入会したのであり、退会や死亡時にその所有株式を被告倶楽部に無償譲渡することをあらかじめ合意した者はいなかった。
また、原告らあるいはその被相続人のうち、昭和四九年に被告倶楽部の理事会が従前の条項を変更して退会時の株券提出義務を内容とする本件細則を定めるにあたり、右変更を了承した者はいない。仮に右変更が所定の手続によりなされたとしても、右変更は正会員の重要な権利変更にかかわる事項であり、変更に際して個々の権利者の個別同意が必要であるから、個別の同意なく一方的に不利益変更をすることは許されない。
(三) 実体法的観点からの無効事由(争点2(二))
仮に本件細則への変更が手続上有効であるとしても、次のとおり、そもそも被告倶楽部の退会・死亡等にあたって株券の提供を求めることは商法の諸規定に反して無効である。
(1) 後記のとおり、被告会社と被告倶楽部は実質的には同一であり、法的人格において区別することができないものであるところ、株式買取請求権(商法二四五条の一以下)等の株主保護手続を設けないままに被告倶楽部の退会・死亡等にあたり株券の返還を義務づけることは、商法二〇四条に定められた株式の自由譲渡性に対する不当な制限となるから、公序良俗に反して許されないというべきである。
(2) また、本件細則は、法人会員にはこれを適用せず、正会員のみに適用されており、自然人である会員には会員の地位の継承を認めない一方で、法人である会員については登録名義書換料の負担のみによって実質上の会員の名義変更が容易に行われている。かかる片面的適用により自然人である会員のみに株券の無償譲渡を義務づけることは、株主平等原則に違反し無効である。
(3) さらに、被告倶楽部と被告会社の法的人格を区別することができない以上、正会員の退会にあたって被告倶楽部が株券の譲渡を受けることは自己株式の取得にあたるというべきであり、商法二一〇条に違反して無効である。
(四) 原告適格(争点1(一))
(1) 前提となる事実3記載のとおり、原告X1(原告番号A②)、原告X2(原告番号A⑰、C⑬)、第二ないし第四事件原告ら、あるいはその被相続人は、それぞれ被告倶楽部に被告会社の株券を引き渡した。
なお、原告X6(原告番号B②)及び原告X7(原告番号B③)は、被告倶楽部の法人会員であった訴外新日本特販株式会社の登録会員であった。そして、昭和五五年ころ、同社が解散する際、右原告両名は、同社の資格を継承する形で被告倶楽部の正会員となったが、この際、同社の有する被告会社の株券を被告倶楽部に預け入れた。
(2) 右各株券の引渡しにあたっては、いずれも、当該原告らあるいはその被相続人は、被告倶楽部から、被告倶楽部では設立当初から退会する際には被告会社の株券の提出義務が定められている旨の虚偽の説明を受けたり、被告会社の株券を提出しなければ退会交付金を支払わないと言われ、やむなくこれに応じたものである。
したがって、いずれも錯誤による無効事由、あるいは、詐欺による取消事由がある。
(五) 被告会社に対する訴えの利益(争点1(二))
(1) 本件ゴルフ場の敷地の大部分は訴外会社が所有しており、被告会社が訴外会社から右敷地を賃借したうえで、さらに被告倶楽部に転貸している。また、被告会社が被告倶楽部に右敷地を転貸するにあたり受領している転貸料と、被告会社が訴外会社に支払う賃借料との間にはほとんど差がなく、わずかに残るその差額も、大半が被告会社の公租公課や株主総会の開催費用等に使用され、被告会社の事業活動には余剰が残らないのが実状である。
このように、被告会社は、訴外会社から本件ゴルフ場の敷地を借り受けることを目的として作られた形骸的な会社にすぎず、被告倶楽部と被告会社とは実質的に一体であり、法的人格を区別する実益はない。
したがって、原告らには、被告倶楽部とともに被告会社に対して、本件細則が無効であることの確認を求める利益があるというべきである。
(2) わが国におけるゴルフ場には、①民法上の社団法人であるゴルフクラブがゴルフ場を運営する社団法人制のゴルフ場、②ゴルフ場事業会社たる株式会社を設立してゴルフ場諸施設を保有させ、これをゴルフクラブに賃貸したうえで、株式会社の株主がゴルフクラブの会員となってゴルフクラブを運営する株式会社制のゴルフ場、③ゴルフ場事業者がゴルフ場建設資金を会員からの預託金で調達し、会員にゴルフ場を優先的に使用させる権利を与えるという預託金制のゴルフ場の三種類があり、本件ゴルフ場は、右のうち、株式会社制のゴルフ場にあたるものである。
株式会社制のゴルフ場においては、右のとおり、ゴルフクラブの他にゴルフ場事業を営む株式会社が設立され、右株式会社がゴルフ場の敷地・諸施設を取得し、ゴルフクラブに右敷地等の一切を賃貸するという方式が採られ、原則的にゴルフクラブの会員は右株式会社の株主となる。会員は、ゴルフクラブの会員としての地位に基づいて、クラブの運営に参加することができるとともに、株主としての地位に基づいて、商法上の株主権を行使することにより右株式会社の経営に関与することができる。そして、会員の地位の譲渡と株主権の譲渡とが一体として行われるため、商法二〇四条に基づいて、原則として株式が会員権とともに自由に譲渡される。ただし、会員権を自由に譲渡することができるとはいっても、譲受人の入会についてクラブの理事会の承認を得なければならないという条件が付加されるのが通常である。
本件ゴルフ場においても、設立当初は被告会社の株主は当然に被告倶楽部の正会員たる地位を有するものとされ、被告会社の株主と被告倶楽部の会員とは同一であったこと、設立以来株式の譲渡は自由とされており、退会者が生じた場合には、被告らが、入会を希望する者への株式譲渡を仲介していたこと等の事情にかんがみれば、本件ゴルフ場は株式会社制のゴルフ場である。
(六) まとめ
よって、本件細則は原告らを拘束するものではないから、原告らは、被告らとの間で本件細則が無効であることの確認を求めるとともに、第二ないし第四事件の原告らは、被告倶楽部に対し、それぞれ被告会社の株券各一枚ずつの返還を求める。
2 被告会社の本案前の抗弁(争点1(二))
(一) 被告倶楽部の細則は、被告倶楽部の団体組織や運営について、被告倶楽部とその会員との間の関係や会員相互間の権利義務関係を定めたものであって、被告会社と被告倶楽部との間の関係や被告会社と被告倶楽部の会員との間の関係を定めたものではない。また、被告会社は被告倶楽部の定款・細則の制定改廃について何らの権限も有していない。
よって、被告会社に対して本件細則が無効であることの確認を求めたとしても、原告らと被告会社との間の法律関係には何ら影響を及ぼさないのであるから、被告会社に対する請求は訴えの利益を欠くというべきである。
(二) 原告らの主張する敷地の所有・使用関係及び賃借料・転借料の事実関係は認めるが、被告会社と被告倶楽部とが実質的に一体であるとの主張は争う。
被告会社は、訴外会社所有の土地を賃借し、それを被告倶楽部に転貸することを事業目的として設立された会社であり、独自の存在意義を有する会社である。
また、被告倶楽部が訴外会社や被告会社からの指示に従って運営されていることはなく、反対に被告会社が被告倶楽部や訴外会社から支配されているということもない。
(三) 原告らは、わが国のゴルフ場を社団法人制、株式会社制、預託金制の三つに分類し、本件ゴルフ場を株式会社制であると主張するが、右分類はわが国のゴルフ場の運営方式のすべてを網羅したものではなく、わが国のゴルフ場が三つのうちいずれかに該当するというものではない。
本件ゴルフ場においては、被告会社は敷地をほとんど所有せず、敷地以外のゴルフ場施設は被告倶楽部が所有していること、被告倶楽部の会員には、当初、特別会員、法人会員、正会員、婦人会員、家族会員、週日会員の六種類があったが、そのうち、特別会員、家族会員及び週日会員は被告会社の株主ではなく、被告倶楽部の会員が原則として被告会社の株主であるとはいえないこと、被告倶楽部においては、被告会社の株式の譲渡により被告倶楽部の会員たる地位が譲渡されることを一貫して認めていないこと等の事情によれば、本件ゴルフ場はいわゆる株式会社制のゴルフ場にはあたらない。
また、株式会社制のゴルフ場であれば、経営の主体は株式会社であり、ゴルフクラブが独自の組織と会計をもってゴルフ場の経営にあたるということはありえないが、本件ゴルフ場では、開業以来被告倶楽部が主体的にその経営にあたっているから、本件ゴルフ場を株式会社制のゴルフ場ということはできない。
本件においては、被告倶楽部が権利能力なき社団であることは当事者間に争いがないところ、権利能力なき社団は社団法人とほとんど異なることはなく、社団法人に関する法律の規定が適用されることになっているのであるから、本件ゴルフ場は、あえて分類するとすれば、社団法人制のゴルフ場にあたるというべきである。
3 被告らの主張
(一) 事実経過について
(1) 原告らが指摘する定款や細則の改正があったことは認めるが、被告倶楽部においては、設立当初から、退会者から被告会社の株券の提出を受けていたものであり、また、被告倶楽部が株式の譲渡を斡旋したことや、これによる株式譲渡が行われていた事実もない。
定款上も、昭和三一年六月に、「定款第一五条により退会を承認せられた者については、理事会において定めた金額を交付することができる。」、「前条により(退会)交付金を受ける退会者は退会に関する必要書類に垂水ゴルフ株式会社の株券を添え提出しなければならない。」との規定が新設されており、退会者に退会交付金を支払う一方で被告会社の株券の提出を受けていたものである。
また、家族内で会員たる地位を継承したことがあるとしても、株式を相続により取得したこととは無関係に、被告倶楽部の定款に従って一旦週日会員を経たうえで正会員として入会しているのであるから、相続により会員たる地位を取得したとはいえない。
(2) そもそも、被告会社の株主であることが被告倶楽部の会員の要件となっていたのは、設立当時、被告倶楽部側が被告会社の発行株式の二分の一を引き受けることとなり、被告倶楽部がこれを引き受けることも可能であったが、むしろこれを会員に引き受けさせることが会員の被告倶楽部に対する帰属意識を確保するのに資すると考えられたからである。
よって、被告倶楽部は、会員が有する株券は被告倶楽部の株式と考えており、退会時に株券を被告倶楽部に提出することは倶楽部創立以来当然のこととして行われていたのである。退会や死亡時の株券提出義務を定める本件細則の規定も、右の処理が明文化されたものにすぎず、設立当時から会員の意思に基づく不文律として成立していたものである。
したがって、被告倶楽部が、定款や細則の改正により、退会者や物故会員の遺族から不正に株券の提出を迫ったかのような原告らの主張は何ら理由がない。
(二) 手続法的観点からの無効事由(争点2(一))
(1) 被告倶楽部が権利能力なき社団であることは当事者間に争いがないところ、権利能力なき社団の定款や細則は、その時々における意思決定機関の決定により変更されうるし、被告倶楽部においても、定款の規定上、その変更を予定している。そして、定款や細則の変更に反対した構成員も、社団の構成員である限り、変更後の定款や細則による拘束を受けることは当然である。
(2) 本件の場合、被告倶楽部においては、遅くとも昭和三一年六月には、細則二三条により退会・死亡時の株券提出義務が規定されたのであるから、右変更後に入会した会員が同細則を承認して入会したことは当然である。
また、本件細則は適法に定められたものであるうえ、被告倶楽部においては退会・死亡時の株券の提出が不文律となっており、構成員の権利義務に変更を加えるものではないから、本件細則は右変更以前に入会した会員も含めて全会員を拘束するというべきである。
(三) 実体法的観点からの無効事由(争点2(二))
(1) 商法上、株式の譲渡は定款による制限のない限り自由であるが、被告倶楽部が本件細則上、会員の退会・死亡時等に株券の提出を要求していることは、商法の株式譲渡自由の原則とは無関係である。
すなわち、被告倶楽部と被告会社とは全く異なる団体である以上、被告会社の株式を所有する会員に対して退会時に右株式にかかる株券を提出するよう義務づけても、何ら株式の自由譲渡性に反することではない。被告倶楽部が会員の退会手続を細則により定めたとしても、強行法規、公序良俗に違反しない限り有効である。
(2) 法人会員は、個々の構成員から独立した存在としての法人をゴルフクラブの会員として認めたものであるから、法人会員における登録会員の変更は当然のことである。
また、法人会員については、その会員たる地位は法人の解散まで消滅しないのであるから、解散までの間に行われる法人の登録会員の変更を、自然人の死亡に伴う相続と同列に論じることはできない。
(四) 原告らの退会(争点1(一))
(1) 原告らも認めるとおり、原告X1(原告番号A②)、原告X2(原告番号A⑰、第一事件に関してのみ。)、第二事件原告ら(ただし、原告X6(原告番号B②)、原告X7(原告番号B③)を除く。)は、いずれも、被告倶楽部を退会して、被告会社の株券を提出した。
また、第三及び第四事件原告らに関しては、その被相続人が生前に、あるいは、被相続人の死亡後に当該原告らが、被告倶楽部からの退会手続を採って、被告会社の株券を提出した。
(2) 右原告X6及び同X7は、元々、被告倶楽部の法人会員であった訴外新日本特販株式会社の登録会員として登録されていた。
ところで、被告倶楽部では、昭和五五年ころ、法人会員のうち個人企業的な色彩を有するものについては、退会手続をとったうえでその登録会員を新たに非株主たる正会員として入会させる特例措置を設けた。そして、右会社は、右特例措置に応じ、法人会員としては退会して被告会社の株券を被告倶楽部に提出したうえで、右原告両名が正会員となったものである。
よって、右原告両名は、一度も被告会社の株主になったことはない。
(3) (1)、(2)による被告倶楽部への被告会社の株券の提出は、いずれも本件細則にしたがって行われたもので、錯誤による無効事由、詐欺による取消事由はない。
よって、右各原告らは、被告倶楽部の細則の無効確認を求める原告適格がない(ただし、請求の趣旨に対する答弁に記載したとおり、被告倶楽部は、これらの原告らの請求に対しても請求棄却の判決を求めるのみである。)。
第三争点に対する判断
一 事実経過の概略
本件に対する判断の前提として、被告らの設立及びその後の経緯と現状等について概観する。
1 設立の経緯及び被告会社の株主構成(<証拠省略>並びに弁論の全趣旨(具体的には被告会社の平成一〇年二月二四日付準備書面添付の「株主異動表」)により認められる。)
(一) 昭和二四年ころ、訴外会社(当時の商号は中日本重工業株式会社)の従業員の農園となっていたかつての舞子カントリー倶楽部の敷地が、本件ゴルフ場として復活されることが計画された。
当時、右敷地及び関連施設は、訴外会社が所有しており、同社が本件ゴルフ場開設のため右敷地等を提供することとなった。また、その利用者をもって、被告倶楽部が組織されることとなった。
ところで、訴外会社は、被告倶楽部が権利能力なき社団であることから、被告倶楽部に右敷地等を直接賃貸することに難色を示した。そこで、被告倶楽部と訴外会社が、二分の一ずつ出資して被告会社を設立したうえで、訴外会社が被告会社に右敷地等を賃貸し、さらに被告会社が被告倶楽部にこれを転貸することになった。
そして、昭和二六年二月に被告倶楽部の発起人総会が開催され、同年六月に被告会社が設立され、同年九月に被告倶楽部の設立総会が開催された。
(二) 被告会社の設立に当たって発行された株式は六〇〇株(額面一株五〇〇円)で、うち三〇〇株を訴外会社が引き受け、三〇〇株を被告倶楽部側が引き受けた。
被告倶楽部では、会員のうち、法人会員、正会員、婦人会員を、クラブ運営に発言権を有する会員とし、これらの会員に入会に当たって被告会社の株を引き受けさせることとした。
そして、被告倶楽部への入会に際しては、法人会員は一口六万円、正会員は一万円、婦人会員は五〇〇〇円の入会金を要したが、入会金のほかに、被告会社の株式を額面の五〇〇円で、法人会員は一口につき二株を、正会員、婦人会員は各一株を引き受けて代金を払い込み、被告倶楽部の発起人代表Eの名で引き受けられていた株式につき株券の裏書譲渡を受けた。
(三) 本件ゴルフ場の開設にあたり、被告会社が、右株式払込金によりクラブハウス等の修繕を行い、被告倶楽部が、入会金によりコースの整備を行った。ただし、水害等で工事資金が嵩んだため、昭和二六年九月の本件ゴルフ場の利用開始時までに、被告倶楽部に対し、法人会員は一口につき一万円の、正会員、婦人会員は各人五〇〇〇円の、追加負担をした。
(四) その後、被告倶楽部の入会者が増加して、Eの名で引き受けてあった被告会社の株券がなくなり、一部は訴外会社が神戸造船所の幹部の名で引き受けてあった株券を入会者に割り当てた例もあった。
そこで、被告倶楽部の入会者の増加に対応するために、また、訴外会社の保有株式の割合を維持するために、昭和二八年四月一五日に二〇〇株が、同年一〇月一五日にさらに八〇〇株がそれぞれ発行された。
これにより、被告会社の発行済み株式数は一六〇〇株、資本金は八〇万円となり、今日に至っている。
(五) 訴外会社は二度の増資には応じたものの、やがて、同社にとっては余技にすぎないレジャー施設のためにこれ以上出資することを拒否したために、被告倶楽部では、新入会員に与えるべき被告会社の株式が不足することになった。
他方で、会員の増加は被告倶楽部の経営上必要であったことから、後記のとおり、被告倶楽部では、昭和三六年から非株主会員を認めることになり、それ以後は、新入会員に被告会社の株券を交付することは一切なくなり、退会者から提供される株券は、新入会員に交付せずに被告倶楽部が保有するようになった。
(六) こうした結果、平成八年八月末日現在で、被告倶楽部の正会員は七五五名であり、そのうち被告会社の株主である会員は一〇六名である(他に行方不明者が五名(五株)ある。)。また、法人会員は一一五社、登録会員は四一一名であり、そのうち被告会社の株主である法人は八九社、登録会員は三二一名(三二一株)である。
なお、右時点で、訴外会社は被告会社の発行済株式一六〇〇株のうち七六六株を有しており、被告倶楽部の法人会員としては二二口を有している。
2 入会金、退会交付金の変遷(1に掲げた証拠のほか、文中の括弧内に記載した証拠により認められる。)
(一) 被告倶楽部では、定款で、入会者は別に定める入会金を納めることになっている。その額は理事会で決定され、変更されてきた。
また、退会交付金は、今日まで定款で定められたことはないが、昭和二八年五月に細則で「理事会で定めた金額を交付することができる」と定められた(乙三の1、2)。その後、細則で「退会交付金は退会を承認した時の入会金の二分の一とする。」旨が定められていたこともあり(昭和三四年三月。乙八)、細則に金額が明記されていたこともある(昭和三七年三月。乙九の2)が、昭和四一年二月には、細則で「理事会で定める金額」と改定されて(乙一五の一)、今日に至っている(乙一九、二〇)。
(二) 入会金の額は頻繁に改定された。正会員についてそのいくつかを挙げると次のとおりである(乙六三)。
設立当初の昭和二六年三月一万円。同年六月二万円。昭和二七年六月五万円(甲二六の1、四一の1)。昭和三〇年四月一〇万円(甲二九の1)。昭和三六年八月五〇万円。昭和四五年五月一〇〇万円。昭和五七年五月五〇〇万円。平成六年九月八〇〇万円。
なお、週日会員の入会金は、昭和四五年には五〇万円(当時の正会員の半額)であったが、次第に増額されて、昭和五三年には二〇〇万円(甲四二、四五の1)、平成六年には五〇〇万円である。また、週日会員が正会員に編入される際は、その時点における週日会員の入会金と正会員の入会金の差額を納める扱いである(甲四五の1、2)。
3 敷地・施設等の所有使用関係(1に掲げた証拠及び甲一六の1、2により認められる。)
(一) 本件ゴルフ場の敷地の約八八パーセントは、訴外会社が所有している。敷地の残り約一二パーセントは、本件ゴルフ場の発足後に追加して購入されたものであるが、そのうち全体の約一〇パーセントを被告倶楽部が、約二パーセントを被告会社が所有している。ただし、被告倶楽部の所有地については法人格がないため、被告会社名義で登記がなされている。
(二) 本件ゴルフ場には、一八ホールのゴルフコースがある。
また、関連施設としてクラブハウス等があり、これらは当初は訴外会社が所有していたが、昭和三四年に火災により焼失した後は、新たに被告倶楽部においてクラブハウス等の建物を建築して、現在は被告倶楽部の所有である(敷地と同様、登記名義は被告会社となっている。)。
4 事業形態(<証拠省略>により認められる。)
(一) 本件ゴルフ場の運営は被告倶楽部が行っており、平成五年度の営業収益は約七億九七〇〇万円、営業費用は約九億九九九〇万円にのぼる。
(二) 他方、被告会社は、平成五年度において、被告倶楽部から敷地使用料として約一億四三三三万円を受領し、訴外会社に対し約一億三〇六五万円の敷地賃借料を支払い、その差額約一二六八万円は租税公課の支払いや通信費、株主総会開催費用等に費消している。
(三) 被告会社には独自の事務所や専従職員はなく、取締役等の会社役員もすべて無報酬である。その事務は昭和四一年までは訴外会社の神戸造船所の総務課が担当していたが、同年以降は訴外会社の関連会社である訴外近畿菱重興産株式会社の従業員が担当している。
(四) 被告会社においては、株主に利益配当をしたことはないが、株主総会は設立以来毎年、訴外会社神戸造船所内で開催されており、招集通知等の手続も商法の規定に従って行われている。
(五) なお、被告倶楽部においても毎年、被告会社の株主総会とは別個に、神戸銀行倶楽部等において、法人会員、正会員、婦人会員からなる総会を開催している。
5 定款及び細則の改正経緯(文中の括弧内に記載した証拠により認められる。)
(一) 昭和二六年九月
被告倶楽部設立時の原始定款においては次の定めがあった(乙一。なお、理解の利便のために、旧字体を新字体に改める、漢字を平仮名に改める、句読点を加える、平易な表現に改めるなどの方法を適宜採っている。以下同様。)。
(1) 本倶楽部の会員は特別会員、法人会員、正会員、婦人会員、家族会員及び週日会員の六種とし、各会員の定員は理事会において定めるものとする(五条)。
(2) 法人会員、正会員及び婦人会員は垂水ゴルフ株式会社の株主であって、会員二名以上の紹介により入会を申し込み、理事会において承認を得た者とする(七条)。
(3) 本倶楽部の会議の議決権は、法人会員にあっては一口につき二個、正会員及び婦人会員にあっては会員一人につき一個を有する(三五条)。
(4) 本倶楽部の運営に必要なる細則は理事会において定めるものとする(四六条)。
(二) 昭和二八年五月
定款の改正により、以下の条項が追加された(<証拠省略>)。
一四条一項
会員としての資格は左の事由により消滅する。
1 退会
2 死亡
3 除名
4 特別会員にして官職にある者が転任又は退官職したとき
5 法人会員にしてその法人が解散したとき
6 家族会員にしてその主体である法人会員あるいは正会員または婦人会員がその会員としての資格を消滅したとき
同条二項
前項2号に定める死亡の場合は、その家族に限り、理事会の承認を得て物故会員の有した資格を継承することができる。
一五条
正会員又は婦人会員が退会するに際し、理事会の承認を得た者に限り、新規入会希望者に権利義務を継承させることができる。
(三) 昭和三一年六月
理事会が細則を改正し、以下の条項が追加された(乙六)。
二二条
定款第一五条((二)の一五条)により退会を承認せられた者については理事会において定めた金額を交付することができる。
二三条
前条により交付金を受ける退会者は、退会に関する必要書類に垂水ゴルフ株式会社の株券を添え提出しなければならない。
退会者に交付する金額は退会承認時の入会金の半額とし、退会者に替わり入会する者については新規入会者として所定の入会金及び垂水ゴルフ株式会社の株式引当金を徴収するものとする。
(四) 昭和三六年五月
定款の改正により、(一)(2)の七条が以下のとおり変更された(乙九の1、三五)。
七条
法人会員、正会員及び婦人会員は垂水ゴルフ株式会社の株主であって、会員二名以上の紹介により入会を申し込み、理事会において承認を得た者とする。
ただし理事会において適当と認めた場合株主でない会員の入会を許可することができる。その数は全株主会員数の一割以内とする。
(五) 昭和四〇年六月
定款の改正により、(四)の七条ただし書きのうち、非株主会員の数について制限する部分が変更され、「その数は全株主会員数の二割以内とする。」と規定された(乙四三)。
(六) 昭和四三年五月
理事会が細則を改正し、一八条((三)の二二条と同趣旨)のうち「定款第一五条により」という文言が削除され、以下のとおり変更された(甲五二、乙四六)。また、(三)の二三条と同趣旨の規定は一九条となり、同条には、退会者に交付する金額が定められた。
一八条
退会を承認せられた者については理事会において定めた金額を交付することができる。
(七) 昭和四六年六月
定款の改正により、(二)の一四条二項及び一五条が削除された<証拠省略>。
一四条二項が削除されたのは、同項の「家族」や「物故会員の有した資格」という文言の内容が不明確であり疑義を生ずる可能性があったことや、被告倶楽部においては、昭和三二年ころから、会員が死亡した場合、その遺族は正会員として直接入会するのではなく、いったん週日会員を経て正会員になるという扱いがなされていたため、理事会において一四条の内容が現実の制度と食い違うと考えたからであった。
また、一五条が削除されたのも、新規入会希望者が継承する会員の「権利義務」という文言の内容が曖昧であったことや、右と同様に、会員が退会するにあたって新規に別の会員が入会する場合、まずは週日会員として入会させる取り扱いがあったことから、理事会において同条を削除する必要があると判断したからであった。
そして、被告倶楽部の定款を改正するについては、法人会員、正会員、婦人会員から構成される総会において三分の二以上の同意を要するものとされているところ、右定款改正にあたっても昭和四六年六月二日に総会が開催され、一一名が現実に出席し、三四七名が委任状を提出して、右改正を承認する旨が全員一致で決議された。
なお、遅くともこの時までに、家族会員の制度が廃止された。
(八) 昭和四九年二月
理事会が細則を改正し、以下の条項が追加されるとともに、退会交付金の金額を定めていた(六)の一九条が削除された<証拠省略>。
なお、右改正は、細則の規定の編成を整える必要があったことや、退会交付金を定めた条項を削除する必要があったことから行われた。
四条(本件細則)
定款第一四条(注・(二)の一四条一項と同趣旨)による会員の資格を喪失した株主たる会員は、必ず必要書類に垂水ゴルフ株式会社の株券を添え提出しなければならない。
五条
正会員、婦人会員及び週日会員が死亡した場合、その直系卑属にして入会希望ある者は理事会の承認を得て新規に週日会員として入会できる。但し所定の入会金を納入しなければならない。
(九) 昭和六〇年六月
定款の改正により、(五)の七条のただし書きのうち、非株主会員の数を全株主会員数の二割以内とする部分が削除された(乙一八、五七)。
また、従来の婦人会員をすべて正会員とし、被告倶楽部の会員の種類は、特別会員、法人会員、正会員、週日会員の四種となった。
6 垂水ゴルフ倶楽部オールド・タイマー会と被告倶楽部との交渉(<証拠省略>、弁論の全趣旨により認められる。)
(一) 右のとおり定款及び細則が改正された後、被告倶楽部の会員の中から、退会・死亡等の場合にこれに代わる入会希望者が週日会員としての入会しか認められないことや、昭和四九年制定の本件細則において株券の提出が義務づけられていることに疑問を抱く者が現れ、平成二年ころ、被告倶楽部との交渉にあたる団体として「垂水ゴルフ倶楽部オールド・タイマー会」(以下「オールド・タイマー会」という。)が結成された。
(二) オールド・タイマー会の会員らは、被告倶楽部の会員でもあるF弁護士のアドバイスを受けつつ、被告倶楽部と本件細則の削除等の措置を求めて交渉を重ね、平成四年には被告倶楽部との間で合意に至った。ところが、オールド・タイマー会の一部の会員がこれに異義を唱えたため、右合意に異論のないオールド・タイマー会の会員が、個別に被告倶楽部と合意書を交わすことにして、オールド・タイマー会は解散した。そして、個別に交わされた合意書では、会員は退会(死亡を含む。)時には被告会社の株券を被告倶楽部に提出することを約し、それが履行されれば被告倶楽部は退会交付金を支払うこと、退会時には、会員の親族が週日会員を経ずに、かつ所定の入会金(週日会員入会金と正会員入会金の合計)の八割の入会金で、直接正会員になれること、親族が入会しないときは、被告倶楽部は、退会交付金のほかに二〇万円を支払うこと等が約された。
他方、右合意に応じなかったオールド・タイマー会の会員らは、被告らを相手として本件訴訟に先立つ民事調停を申し立てたが、被告らが右合意以外の妥協を拒否したため、不調に終わり、右合意に応じなかったオールド・タイマー会の会員らが中心となって、本訴提起に至った。
二 被告らの関係
争点を判断するに当たっては、被告倶楽部と被告会社との間の関係について検討しておくことが有益であるから、ここでこれを検討する。
1 前記のとおり、被告会社はもっぱら被告倶楽部が運営する本件ゴルフ場の敷地及び諸施設を訴外会社から賃借し、これを被告倶楽部に転貸することを目的とした会社であり、他に独自に営利活動を行っているわけではない。
他方、被告倶楽部は本件ゴルフ場の運営を行っているところ、その敷地の約九〇パーセントは、被告会社から賃借しているものである。
したがって、被告倶楽部と被告会社との間には密接な関係があることは否定できない。
2 しかし、一1(六)で認定判示したとおり、現時点においては、被告倶楽部の会員の中に被告会社の株主ではない者が多数含まれ、他方、被告会社設立の当初から、被告会社の株式の半数は訴外会社が有しているのであるから、被告倶楽部と被告会社とは構成員をまったく異にしており、それぞれの意思決定は独立してなされることが明らかである。また、手続的にも被告倶楽部の総会と被告会社の株主総会とは別個に開催されており、被告会社の株主総会においては、商法上要求される諸手続が遵守されている。
さらに、業務執行者の点においても、被告倶楽部の代表者理事長と被告会社の代表者代表取締役は別の者が務めている。
これらに加えて、被告会社自体は、ゴルフ場を運営していないとはいえ、その敷地及び諸施設を訴外会社から借り入れるという本件ゴルフ場運営にあたってきわめて重要な役割を担っているのであって、その組織が実体のない形骸化したものといえないことは明らかである。
3 結局、被告倶楽部と被告会社とは別個の独立した法主体であって、実体法的にも手続法的にも、一方に生じた法的効果が当然に他方にも及ぶとすることは相当ではない。
三 争点2(本件細則の効力)について
そこで、まず、争点2について判断する。
1 判断の基礎となるべき事実
(一) 被告倶楽部設立当初の株券授受の実情
(1) <証拠省略>及び弁論の全趣旨(具体的には被告会社の平成一〇年二月二四日付準備書面添付の「株主異動表」)によると、被告倶楽部では、設立当初から退会者や物故会員の相続人から被告会社の株券の提出を受けており、こうして提出された株券を保管しておいて、新規入会者から、入会金とは別に株式額面額(一株五〇〇円)の払込みを得て、保管していた株券を交付していたこと、そして、被告倶楽部が保管する株券がない場合には、訴外会社が引き受けておいた分から入会者に交付していったことが認められる。他方、被告倶楽部の会員ではない者が被告会社の株券を取得した例や、被告倶楽部の会員が退会するに際して株券の提出を拒んだ例があったことを認めうる証拠は一切存しない。
なお、原告X8の供述中には、同人が被告倶楽部に入会した際、入会金一二万円のほかに株式の引受代金として一万円を被告倶楽部に支払った旨の供述部分があるが、同人の三年後に入会したX9(原告番号A⑤)が被告倶楽部から受け取った領収書(甲五五の2)には、「入会金一〇万円、株式代五〇〇円」と明記してあることに照らして、原告陳の右供述は採用することができない。
(2) また、二で認定した事実によると、被告会社は訴外会社から本件ゴルフ場の敷地等を賃借し、これを被告倶楽部に転貸するという業務以外の業務を行っていないのであるから、被告倶楽部の会員にとって、被告会社の株式は、被告倶楽部の会員たる地位と切り離されて独立した価値を有していたとは考えられない。
すなわち、被告倶楽部を退会したにもかかわらず被告会社の株主であり続ける実益はなく、そのような事態は予定されていなかったし、現に、そのような例があったことを認めるに足りる証拠はない。
(3) ところで、被告倶楽部はゴルフという趣味を同じくする者が集い、会員間の親睦を図るといういわゆる「社交クラブ」の一つであるが、社交クラブにあっては、性質上、その会員資格は一身専属的であって、会員たる自然人の死亡によって、当然に相続人に相続されるものではない。
また、会員資格の存続(除名の当否)、新入会員の選択にあたっても、原則として会に広い裁量権が与えられており、当該社交クラブの設立目的とはまったく関係のない人種、信条、性別、社会的身分または門地などを理由とするときなどのように、明らかに公序良俗に違反すると認められる場合を除き、会のした決定が違法となることはない。
被告倶楽部の原始定款においても、法人会員、正会員、婦人会員は、垂水ゴルフ株式会社の株主であって、「理事会において承認を得た者」とする旨が明記されており(乙一、七条)、その会員資格が一身専属的であることは明記されているといえる。
(4) したがって、被告倶楽部においては、その設立の時から、被告倶楽部の会員資格と被告会社の株式とがいわば一体のものと取り扱われ、会員が被告倶楽部を退会する際には被告倶楽部に被告会社の株券を引き渡すことは事実上不文律として存在したと認めるのが相当であり、かつ、当事者の合理的な意思表示の解釈に合致したものというべきである。
(二) 被告倶楽部の定款及び細則の改正の趣旨
被告倶楽部の定款及び細則の改正の客観的な経緯については、一5で認定判示したが、ここではその妥当性について検討する。
(1) 原始定款
昭和二六年九月の被告倶楽部設立時においては、被告倶楽部の正会員、婦人会員はすべて被告会社の株主であった。そして、その定款及び昭和二八年五月に制定された細則(乙三の1、2)には、会員資格の消滅に関する規定は存在しない。
ただし、退会の際には被告倶楽部に被告会社の株券を引き渡すという不文律が存在していたことは、(一)で認定したとおりである。
(2) 会員資格の消滅等に関する定款改正
昭和二八年五月に被告倶楽部の定款が改正され、会員資格の消滅、継承に関する規定が新設された。
そして、被告倶楽部の会員資格が一身専属的であることに照らすと、右定款の改正は、社交クラブとして当然のことを定めたにすぎない。
(3) 株券提出義務の明記に関する細則改正
昭和三一年六月に被告倶楽部の細則が改正された。
その内容は、定款一五条(昭和二八年五月改正)の「正会員又は婦人会員が退会するに際し、その権利義務を新規入会希望者に継承させることができる。」との規定に基づき、理事会は一定金額を右退会者に交付することができるとし(退会金の交付が必要的と定められたわけではない。)、右金額を受領するについて提出すべき書類の一つとして被告会社の株券を挙げたもので、文言上は、替わりに入会する新規入会者がいない任意退会の場合、理事会が退会者に一定金額を交付することとは定めなかった場合、死亡及び法人の解散による退会の場合は、いずれも含まれていなかった。
そして、この規定の仕方の巧拙は別として、当時は被告倶楽部の正会員、婦人会員は被告会社の株主に限られていたのであるから、定款一五条により「権利義務」を他に継承させる以上、右細則の改正は退会に伴う当然の手続を明確にしたものにすぎず、退会者に新たな義務を課するものとはいえない。
(4) 非株主会員の容認に関する定款改正
昭和三六年五月に被告倶楽部の定款が改正されて以降、被告会社の株主ではない者でも被告倶楽部の会員になることが容認されたが、定款上、会員が被告会社の株主であるか否かによって、被告倶楽部の会員としての資格や、権利義務の内容が区別されたことは一切ない。
そして、非株主会員を容認し、しかも株主会員との間に何らの区別も設けなかったことにより、新入会者に株券を交付することは必要でなくなり、株式引当金を徴収することもなくなった。その結果、退会者から受け取る株券は被告倶楽部において保管するようになり、株式の名義書換えも行われなくなった(丙一一、証人Gの証言、弁論の全趣旨(具体的には被告会社の平成一〇年二月二四日付準備書面添付の「株主異動表」))。
(5) 株券提出の退会一般への拡張に関する細則改正
昭和四三年五月、被告倶楽部の細則が改正された。
その内容は、「定款一五条により」との文言を削除し、「退会を承認せられたる者」すべてについて、退会交付金を交付することができるものとし、それまでの細則同様に、退会交付金を受領するには株券の提出を要する旨を定めたものである。この改正自体は、退会交付金を受領すべき任意退会者を、定款一五条が定める新規入会者に権利義務を継承させる場合に限定する理由がないことから、相当な措置であるということができる。
また、新規入会者に被告会社の株券を交付しなくなったとはいえ、被告倶楽部の運営にとっては、被告会社の株式を保有することは、被告会社の経営に対する発言権を確保する点で意味があり、必要な措置ということができる。有価証券である株券は、会員資格とは独立して処分される可能性があるし、長年の会員の中には株券を紛失する者もある(前記の株主異動表に見られる如く、除権判決を得て再発行されている例が昭和三三年に始まって三五年ころまでの間にいくつかある。)ことから、退会交付金を受ける際に株券を提出するよう規定することで、株券の散逸を防ぎ、紛失した株券については権利者たる会員をして除権判決を得て再発行を受けさせることで、紛糾を予防したものともいえる。ちなみに、この点は、平成四年のオールドタイマー会との合意でも、同様の措置が予定された(乙六二)。
(6) 本件細則
次に、昭和四九年二月に、被告倶楽部の細則が改正され、本件細則が定められた。これは、被告会社の株券の提出を、任意退会の場合だけでなく、死亡や法人の解散の場合をも含む会員資格の消滅の場合すべてについて一律に適用する内容に変更したものである。
右改定も、昭和四六年の定款の改正により、死亡の場合に家族が資格を継承できるとの規定や新規入会希望者に継承させることができる旨の規定が廃止されたのに符合させて、死亡や解散といった退会事由の場合においても、任意退会の場合と同様の扱いをするよう明記したもので、相当な措置であるということができる。
また、(一)で認定した不文律に照らすと、これをもって退会者に新たな義務を課したものということはできない。
2 実体法的観点からの無効事由の有無
以上の認定事実及び検討を前提に、まず、本件細則に実体法的観点からの無効事由があるか否か(争点2(二))を、原告らの主張に即して検討する。
(一) まず、原告らは、被告倶楽部と被告会社とが実質的には同一であることを前提に、本件細則は商法二〇四条に定められた株式の自由譲渡性に対する不当な制限であり、公序良俗に違反する旨主張する。
しかし、被告倶楽部と被告会社とが別個の独立した法主体であることは二で検討したとおりであり、そもそも商法二〇四条の適用はない。
また、すでに検討した本件細則の制定に到る経緯及び被告倶楽部の会員にとって被告会社の株式が被告倶楽部の会員としての資格とは別に、独立した価値を有するものではないことに照らすと、本件細則をもって公序良俗に反するということはできない。
(二) 次に、原告らは、本件細則は個人会員と法人会員とを区別して取り扱うものであり、株主平等原則に違反して無効である旨主張する。
しかし、右原則は株式会社の内部における株主の地位に関する原則であって、二で検討したように、被告会社と被告倶楽部とは別個の独立した主体であるから、右原則は被告倶楽部の本件細則に対して適用されるべきものではない。さらに、被告倶楽部においては、法人会員にあっても、解散の場合には個人会員の死亡の場合と同様、本件細則の適用を受けることは明らかであって、本件細則自体が差別的取り扱いを定めたとはいえない。
なお、法人会員の場合には、登録会員を変更することができ、死亡により退会となる個人会員との間に差異が生ずるが、それは被告倶楽部の発足以来、法人会員が認められている以上、避けられない事態であって、本件細則の問題ではない。
(三) さらに、原告らは、被告倶楽部と被告会社とが実質的には同一であることを前提に、本件細則は商法二一〇条(自己株取得の禁止)に違反して無効である旨主張する。
しかし、被告倶楽部と被告会社とが別個の独立した法主体であることは二で検討したとおりであり、商法二一〇条の適用はない。
(四) したがって、本件細則には実体法的観点からの無効事由は存在しない。
3 手続法的観点からの無効事由の有無
ついで、本件細則に手続法的観点からの無効事由があるか否か(争点2(一))を検討する。
(一) 被告倶楽部は権利能力なき社団であるところ、権利能力なき社団の定款、細則は、定款に定めた手続によって、有効に変更されうる。
そして、当該変更が公序良俗違反等の理由で実体法的に無効である場合を除き、仮に、定款、細則の変更に反対する構成員がいたとしても、当該権利能力なき社団の構成員である限り、変更後の定款や細則による拘束を受けることは当然である。
(二) 本件細則が、実体法的に有効であることはすでに判示したとおりである。
そして、乙一四の1、2によると、被告倶楽部の定款四六条には、「本倶楽部の運営に必要なる細則は理事会に於て定めるものとする。」との規定があることが認められ、1(二)で認定判示した被告倶楽部の定款及び細則の改正の趣旨に照らすと、会員資格喪失の際の手続を定めたにすぎない本件細則は、右定款四六条により、理事会に決定権が委ねられていた事項であるということができる。
(三) したがって、本件細則には手続法的観点からの無効事由も存在しない。
四 争点1(当事者適格及び訴えの利益)について
ついで、争点1について判断する。
1 原告側の問題(争点1(一))
(一) 二重起訴
原告X2(原告番号A⑰・C⑬)は、自らが被告倶楽部の会員であるという立場(第一事件)と会員であった者の相続人であるという立場(第三事件)から、原告X4(原告番号B④・C⑰)は、自らが被告倶楽部の会員であったという立場(第二事件)と会員であった者の相続人であるという立場(第三事件)から、いずれも訴えを重ねて提起している。
しかし、本件細則の無効確認の訴えによって、同原告らそれぞれと被告らとの間で確認されるべき法律関係は一個であるから、右両名は本件細則の無効確認請求については同一の訴えを二重に提起したものというほかなく、後に提起した訴え(いずれも第三事件)は民事訴訟法一四二条所定の二重起訴の禁止に触れる違法なものである。
(二) 確認の利益
(1) 第一事件原告のうちX1(原告番号A②)及びX2(原告番号A⑰)が既に被告倶楽部を退会していることは同原告らの主張から明らかである。
また、原告X6(原告番号B②)と同X7(原告番号B③)を除く第二事件原告らが既に被告倶楽部を退会したこと、第三及び第四事件原告らはいずれも被告倶楽部の会員であった者の相続人として本訴を提起したものであるが、被相続人が生前に被告倶楽部の退会手続を了し、あるいは被相続人の死後、相続人である当該原告らが被告倶楽部の退会手続を了し、いずれも被告倶楽部に被告会社の株券を引き渡したことは当該原告らが認めるところである。
(2) なお、原告らの主張を精査すると、右原告のうち、X1のみは現在も被告倶楽部の会員であると主張しているかのようにみえる部分があり(例えば、原告らの平成九年三月一七日付準備書面)、これは結局、原告らの主張が、被告倶楽部から退会したことは認めた上で退会に伴う株券の交付に関してのみ瑕疵(錯誤無効、詐欺取消)を主張するのか、退会の意思表示についても瑕疵(錯誤無効、詐欺取消)を主張するのか、必ずしも明らかとはいえないことに由来している。
けれども、原告らが、退会の意思表示についても瑕疵を主張するのであれば、その結果としての会員資格の存在自体の確認を訴求すべきものであって(その場合、株券の返還請求や細則の無効確認請求は副次的な請求にすぎない。なお、右の請求をする場合には、年会費の納付等の会員資格の保持要件を満たしていることが前提問題となろう。)、その請求をしていない以上、退会の意思表示は有効としつつ、株券の交付に関してのみ、瑕疵を主張しているものと解するほかない。
(3) 確認請求訴訟において訴えの利益が認められるためには、原告の権利または法律的地位に危険・不安が現に存在し、かつ、その危険・不安を除去する方法として原告と被告との間でその訴訟物たる権利または法律関係の存否を確認する判決をすることが有効適切であることが必要である。
そして、現に被告倶楽部の会員である第一事件原告ら(原告X1、同X2を除く。)並びに原告X6(原告番号B②)及び原告X7(原告番号B③)については、現に所属する被告倶楽部の本件細則が無効であることの確認を求める利益があるというべきであるが、現に被告倶楽部の会員ではないその余の原告らについては、本件細則が無効であることを理由に既に提出した株券の返還を求めることはともかく、本件細則が無効であることの確認を求める利益があるとはいえない。すなわち、本件細則の有効・無効は、当該原告らの株券引渡請求の判断の前提として検討すれば足り、現に被告倶楽部の会員ではない原告らとの間においてまで、主文をもってこれを確定するまでの必要性が認められないからである。
よって被告倶楽部の会員ではない原告らの細則無効確認の訴えは、不適法なものである。
2 被告会社の問題(争点1(二))
被告倶楽部と被告会社とは別個の独立した法主体であることは二で認定判示したとおりである。
そして、原告らと被告会社との間で、被告会社とは関係のない被告倶楽部の本件細則の有効・無効を確定したからといって、これにより、原告らと被告会社との間の法律関係が解決されるわけではない。
したがって、原告らの被告会社に対する請求(本件細則の無効確認請求)は、訴えの利益がなく不適法なものである。
五 補足判示
1 株券の返還請求について
(一) 以上認定判示したとおり、本件細則を無効とすべき事由は認められない。
(二) 第二ないし第四事件原告らは、その被相続人あるいは本人が、本件細則に基づいて、それぞれ被告会社の株券を被告倶楽部に返還したのであるから、そこに、錯誤や詐欺を観念する余地はない。
なお、本来、錯誤、詐欺の主張は、それぞれの原告ごとに具体的な錯誤内容、欺罔文言等を特定して主張する必要があるが、本件においてはこのような具体的主張はなく、また、原告X10(原告番号D⑤)を除いては、個々の原告ごとの具体的な錯誤内容、欺罔文言等を認めるに足りる証拠もまったく存在しない。そして、同原告に関しては、甲四六の4、同原告の本人尋問の結果がこれに関係する証拠であるが、これらによっても、同原告が被告会社の株券を被告倶楽部に返還するに際し、同原告に錯誤があったとも、被告らから欺罔されたとも、認めることはできない。
(三) 原告X6(原告番号B②)及び原告X7(原告番号B③)については、かつて被告倶楽部の法人会員であった訴外新日本特版株式会社が被告倶楽部を退会する際に、右原告両名が被告倶楽部の正会員になったこと、この際、同社が所有していた被告会社の株券が被告倶楽部に引き渡されたことの限度では、当事者間に争いがない。
そして、株券が発行された株式の譲渡には株券の交付が必要であるところ、訴外新日本特版株式会社から右原告両名に被告会社の株券が交付されたことは主張も立証もされていないから、右原告両名が、被告会社の株主であったとすることはできない。
したがって、右原告両名の被告倶楽部に対する株券返還請求は、この点においても失当である。
(四) よって、その余の点について判断するまでもなく、第二ないし第四原告らの被告倶楽部に対する株券の引渡請求は理由がない。
2 定款における相続、譲渡規定の削除について
(一) なお、原告らは、昭和四六年の定款改正により、死亡の場合の資格継承の規定と、退会の際に新規入会希望者に継承させることができる旨の規定が撤廃され、原告らそれぞれの入会当時の定款(昭和二八年改定分)で約されていた会員資格の継承が不可能になったことを問題とする(そしてこれが、前記のとおりオールド・タイマー会結成に至った理由であり、原告らの構成する主張にかかわらず、これが本件紛争の本質的な問題であると解される。)。
けれども、右は定款改正の問題であって、それに手続的あるいは実体法的な問題があるとしても、そのことから直ちに、本件細則の無効をきたすものとは解されない。
(二) のみならず、被告倶楽部は社交クラブの一つであり、社交クラブにあっては、その会員資格は一身専属的であって、会員たる自然人の死亡によって、当然に相続人に相続されるものではないことは、三1(一)(3)ですでに判示したとおりであり、右定款の変更が実体法的に無効であるとすることはできない。
なお、原告らは、個人会員が死亡により資格を失うのに対して、法人会員が法人の存続する限り資格を失わず、登録会員を変更できることを問題とする。
けれども、そもそもこの差異は被告倶楽部に発足当初から法人会員が存在することから生じているのであり、右定款改正や本件細則によって生じた問題ではない。
のみならず、証人Gの証言によると、被告倶楽部の法人会員は、本件ゴルフ場にいわゆるビジターを多数連れてきてくれる点で経営上軽視できない会員であり、一定の優遇措置は必要であること、法人の登録会員は、退職や転勤等により二、三年で交代して変更が激しく、変更の度に支払われる登録料も決して小さくないこと(正会員の入会金が八〇〇万円になった当時で登録料は一二〇万円であった。)が認められる。
結局、法人会員と個人会員とが併存する以上、完全に平等な扱いをすることは不可能であって、その差異をどのように調節するかは、被告倶楽部の自治に任されているのであり、右事実をも考慮すると、本件細則により株券提出義務において個人会員と法人会員との差別が生じているとしても、その程度の差異は、公序良俗に反するものとは到底いえない。
(三) また、手続法的にも、以下のとおり、その改正を無効とするような事由を認めることはできない。
右定款改正の総会決議は、一5(七)のとおり、定款の定める出席会員の四分の三を超える、全員の賛成をもって決議された。
もっとも現実に出席した会員は一一名だけで、委任状を提出した者が三四七名にのぼっていたところ、この総会の招集通知に、右改正を議題とする旨が記載してあったことを認めうる直接の証拠はない。けれども、定款上、総会の招集は会議の目的を記載した書面をもって招集することが定められており(乙一など)、被告倶楽部が、現実に会議目的を「定款一部変更に関する件(一七条一項)」などと記載した総会の招集通知を発している例も認められるから(乙二四)、右定款改正の総会においても、あらかじめ右改正を議題とする招集通知がされていたことを優に推認することができる。
なお、定款や細則は改正毎に印刷されており、会員総会の結果は、会務報告書として会員に送付されており、二年に一回ほど発行される会員名簿に定款、細則が登載されていた時期もあったのであって(乙一ないし二〇の各印刷物の存在、乙六一、証人Gの証言)、右定款の改正や本件細則の制定は、会員への周知が図られていたというべきである。
3 我が国におけるゴルフ場の分類
当事者双方が主張する我が国におけるゴルフ場の形態の分類は、ゴルフ場の運営の方式や実態が各ゴルフ場ごとに大きく異なると思われること、仮に分類に成功したからといって、それに適用されるべき法理が確定しているとはいえないこと、右分類を行わなくとも、すでに判示したところにより本件の判断には充分であることから、これを検討する必要性を認めない。
第四結論
結局、本件の結論は次のとおりとなるので、主文のとおり判決する。
一 本件訴えのうち次の部分は不適法なものとして却下する。
1 原告X2及びX4の、各第三事件の訴えのうち被告らに対して細則無効確認を求める訴え(二重起訴にあたる)。
2 原告X1及び同X2並びに第二ないし第四事件各原告らの、細則無効確認を求める訴え(当該原告らは確認の利益を欠く。)。
3 原告らの被告会社に対する細則無効確認請求(同被告に対する確認の利益を欠く。)。
二 主文第二項記載の各原告らの被告倶楽部に対する本件細則無効確認請求並びに、第二ないし第四事件原告らの被告倶楽部に対する株券返還請求はいずれも理由がないから棄却する。
三 訴訟費用につき民事訴訟法六一条、六五条一項本文を適用する。
(裁判長裁判官 下司正明 裁判官 永吉孝夫 裁判官伊藤桂は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 下司正明)
<以下省略>